毎年、香港にも期間が短い秋の気配が感じられると、必ず話題に挙がるのが「大閘蟹」(上海蟹)。少し前に取り上げた別記事の尖沙咀『天香樓』と双璧で比べられることが多いお店としても名前が挙がるのが今回ご紹介する『杭州酒家』です。
何故比較されるかというと、もともと天香樓のエクゼクティブシェフとして活躍されていた杭州出身のシェフの方が、杭州酒家に2007年に移られた、ということで、なかなか普段づかいできない天香樓とほぼ同じメニューが、比較的安価でいただける、という評判が評判を呼び、天香樓に行くよりはリーズナブルに収まるだろう・・・ということで杭州酒家に足を運ぶ方が増えたようです。まだ天香樓に訪れた際の味の記憶があるうちに、こちらの杭州酒家に訪れるチャンスがありましたので、今回ご紹介させていただきます。
実は、杭州酒家がある通りはY字路になっており、入り口が2つの通りにあります。写真のネオンサインと路面すぐに階段がある外観は、裏道的な「灣仔道」(Wan Chai Rd)側。こちらの入り口の方が立派に作られています。
トラムが走る通りJonston St.から入ると、商業ビルで一見レストランが入っている感じはしないのですが、上を見上げると杭州酒家の看板があるのでわかりやすいです。中に進んで1F(日本でいう2階)が杭州酒家です。
さて、杭州酒家のメニューは、けっこうお金をかけて一部写真付で作られています。日本語訳も日本人があれ?と思うような翻訳ではなく、しっかり調理法や素材が伝わる日本語表記になっています。ヘンテコ日本語訳に多く出会う香港で、これは貴重。細かいところですが慣れていない観光の方や、香港在住で広東語がわからない方も多いのでポイント高いです。
さて、このアルミホイルに包まれたブツの中身が前日までに要予約の杭州酒家名物です。メニュー表記名は「富貴鶏」ですが、この料理が生まれたストーリーから「乞食鶏」と呼ばれている料理です。昔昔、乞食が鶏を盗んでしまい、人に知れないように、と泥を塗って隠し、食いしん坊だからか?泥を塗ったまま焼いて食べたところ、ことのほかおいしかったので、その料理法が「乞食鶏」という名前で伝わった、というエピソードのある料理。 当時、江南へ遊びに行った乾隆皇帝がその話を聞き、どうしてもその鶏が食べたくなった、とのことで、皇帝に食べさせられるようなものにするため、その時から外側に蓮の葉を包んでから泥を塗ったのだそうです。
なるほど、たしかに蓮の葉に包まれた鶏の塊が出てきました。鶏の中には、雲南大頭菜カブ、玉葱、スープで煮込んだ豚肉の千切りをが詰め込まれています。鶏は老醤、紹興酒、塩で漬けて下味を付けているそうです。蓮の葉の上に塗る泥には紹興酒を混ぜているとのこと。味わいは、もっと甘味をつけている味付けかと思いきや、シンプルな下味と中の詰め込まれた具材の風味なので、意外にもあっさりでした。蓮の葉に包んでから泥を塗って焼く調理法とあり、蓮の葉の香りがかなり鶏についています。紹興酒の香りは既に飛んでいますので、お酒が苦手な方も大丈夫でしょう。香港の一般的な鶏料理だと、このような淡い味付けだとソースを別添えにするのですが、この乞食鶏に関してはこのままでどうぞ、という自信の表れ、なシンプルな食べさせ方でした。
要予約メニュー、もうひとつの代表格がこちら!東坡肉(トンポーロー)。いわゆる豚の角煮。老醤、砂糖、紹興酒のみのシンプルな調味料でじっくりと煮込んだ後、更にサーブする写真の小さい器に移してから蒸しあげた後、四角い包子と共に提供されます。
日本でもお馴染みな、角煮まん、なビジュアルですね!でも一口いただくと、豚がいかに柔らかく優しく、甘ったるくない味わいで煮込まれているかわかる逸品。小さいポーションでも十分満足できる、必食な予約メニューです。
さて、ここからは天香樓で同じメニューを頼んだ何品かで定点観測の味の比較。まずは「酔っ払い鳩」。こちらは、ちょっとレバー感というか、鉄分を感じる味わいになっていました。こちらの味わいの方がワイルドで好き、という方もいらっしゃるかも。
酔っ払い鳩を正面から見た盛り付けが何気にキュート♪
定点観測メニューその2.「馬蘭頭(マーラントウ)と干し豆腐の和え物」。盛り付けは非常に整っており綺麗ですが、切り方は、天香樓の同じメニューの方が細かくで口触りが良かったと感じました。
定点観測メニュー3「龍井蝦仁」。正直、天香樓に伺った際は、龍井茶へのこだわりは味にそんなに影響するのだろうか?と思っていましたが、杭州酒家の同メニューを一口食べたら「あ、あの龍井茶のこだわりは自信の表れだ」ということが理解できました。使用しているお茶の量、質、剥き川えびの大きさ、全く違います。龍井茶にこだわっていると、更に爽やかに、香ばしい味わいが口に広がり、サッパリとしまるのだ、ということが比較して理解できました。といっても、杭州酒家も美味しくないと絶対にお店には行かない香港ローカルに人気も人気のお店ですので、味はちゃんとしています。これはこれで美味しくいただくことができました。
さて、皆さんも一番気になるのではないか、と思うメニューが「招牌蟹粉拌麺」。同じメニューならよりリーズナブルな・・・という気持ちもわかります。天香樓は1杯468HKD。杭州酒家は、1杯268HKD。麺の量、蟹あんも断然杭州酒家の方がボリュームがあります。(写真のどんぶり、蟹あんは1人前の量)
ビジュアル的には本当に美味しそう、十分条件を満たしているな、といった感じ。
お味は・・・と一口啜った際に天香樓との違いがハッキリとわかりました。細かい蟹の殻が混じっていて、引っかかります!そして、ほぐした蟹の身が黒ずんでいるところが多い。蟹の卵部分もざっくりとほぐしているので見た目がそこまで綺麗、というわけではない。蟹の殻が口に残っている下処理は残念ですが、味わい自体は非常に美味しく満足できるかと思います。
さて、ここからは杭州酒家メニュー。日本から来た方をお連れしたのですが、日本人の口にも合うスープ酸辣湯(サンラータン)。
あれ?しばらく来ないうちにこんなビジュアルになったかな?と一瞬驚いたのが小籠包。皮は写真でご覧いただいたイメージの通り、厚めな皮のタイプです。
レストランのシェフは、そこでしか味を出せない表現をするので、普段はあまり比較しないのですが、今回は、天香樓と杭州酒家があまりにも比較されることが多いので自分でも研究したいな、と個人的なテーマでもあったので、自身も勉強になった体験でした。
単体のレストランとしては十分美味しいと思いますし、杭州料理の伝統を伝えている貴重なお店であることは間違いないです。第一、2005年開店とは思えないほど老舗の風格が出ていました。
ただし、よく比較される、レジェンドレストラン『天香樓』は、やはり裏の素材吟味、下処理、調理法、さりげないようで、口に入れるものに対してのプライド、責任感、気合い、全て伝わってくる内容は、やはり別格なのだ、と再確認。「高い」という理由と意味がどういうことなのか、少しばかり理解できたような気がします。
今回は、メニュー比較に重きをおいてみましたが、杭州酒家自体は、しっかりした技術と味わいのお料理を提供されている銘店です。非常にメニューも多く、写真付、日本語訳付でも非常に迷ってしまうと思うので、この記事がお店を訪れる際のメニュー選びの参考に少しでもお役立ていただけたら嬉しいです。
ちなみに、今回は注文しませんでしたが、時価の「大閘蟹」(上海蟹)、訪問時のお値段は一杯 308 HKDでした。こちらもご参考までに。
【店舗情報】
店名:杭州酒家 Hong Zhou Restaurant
住所:灣仔莊士敦道178號-188號華懋莊士敦廣場1樓
1/F,Chinachem Johnston Plaza,178-188 Johnston Road, Wan Chai
電話番号:2591-1898
営業時間:11:45-14:30 17:45-22:30
定休日:ナシ
※補足:杭州酒家は、2010-2017年 ミシュラン連続掲載!1つ星レストランです。
0コメント